腎臓病の食事制限のポイントを教えてください。
腎臓病の食事制限でまず大切なことは、主治医の指導に従って行うことです。
実践のポイントとして、全ステージの方が対象になる「塩分」の調整が挙げられます。
腎臓病の家族の食事について、医師から制限が必要だと言われたものの、どのように実践したらよいか悩まれている方もいらっしゃるでしょう。腎臓病には進行度合いによってさまざまな食事制限があり、腎臓の状態に合った食事の調整が必要です。
この記事では、腎臓病の全ステージの方が対象になる「塩分」の調整について、実践法と続けやすい工夫を解説します。具体的な調整の仕方や注意点を把握することで、安心して家族に食事を作れるようになるでしょう。医師に腎臓の状態を確認しながら、日々の食事づくりの参考にしてください。
「腎臓病の食事制限」は医師の指導に従って実践する
腎臓病の食事制限は、自己判断で行わず必ず医師の指示に従って行いましょう。制限内容は腎臓の状態だけでなく、さまざまな要因も含めて総合的に判断する必要があるからです。
食事制限の指標として、ステージ(病期)ごとに基準が設けられています。(以下の表1「慢性腎臓病(CKD) ステージによる食事療法基準」を参照)
この基準をベースに、生活習慣病の有無や年齢、性別、身体活動量などを考慮し、適切な食事療法が指導されます。
(日本腎臓学会「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年度版」より一部改変)
慢性腎臓病は5つのステージに分類されます。分類の指標になるのが「GFRの値」です。GFRとは「糸球体ろ過量」のことです。腎臓のフィルター機能を担っている「糸球体」に、老廃物をろ過し尿に排出する能力がどれ位あるかを数値化しています。値が低いほど腎機能が低下していることになります。
腎臓病のステージだけを見て自己判断せず、主治医の指導に従って食事制限を実践していきましょう。
慢性腎臓病は治癒が難しい病気です。早期から適切な治療や食事療法を行えば、腎機能の低下を抑え、病気の進行を遅らせることができます。
「腎臓病の食事制限」は塩分の調整がポイント
腎臓病の全ステージの方が対象になる「塩分」の調整が、腎臓病の食事制限のポイントになります。塩分を制限することで、血圧の低下や腎機能低下の抑制が期待できるからです。
慢性腎臓病の食事療法では、食塩の摂取量は1日「3g以上6g未満」が目標値になっています。日本人の食塩摂取量の平均値は10.1gです。60歳以上は平均値を上回っており、摂取量が多い傾向にあります。(参考:厚生労働省 「令和元年 国民健康・栄養調査報告」 P52)
基準値内への調整が難しい場合は、かかりつけの医師や管理栄養士に相談しながら段階的に塩分調整を行うとよいでしょう。
ここからは具体的な塩分の調整方法について、次の項目別に解説します。
- 食事に含まれる塩分量を知る
- 調理のときに減塩の工夫をする
- 食べるときに減塩の工夫をする
食事に含まれる塩分量を知る
普段の食事にどれくらいの塩分が含まれているか確認しましょう。塩分は調味料だけではなく食品そのものにも含まれているので、食事全体の塩分量を把握することが必要です。食事全体の塩分量を把握するために、まずは「調味料の塩分」と「主食の塩分」について確認しましょう。
※調味料に含まれる塩分量
(※文部科学省「食品成分データベース」をもとに計算)
製造メーカーによって塩分量は多少異なります。よく使用する調味料については、栄養成分表示を確認して一覧にしておくとよいでしょう。
※主食に含まれる塩分量
※ うどん・そば・中華めんは茹でめんの塩分量。
※ スパゲッティは塩を使わずに茹でた場合の塩分量。
(※文部科学省「食品成分データベース」をもとに計算)
パンや麺類などにも塩分が含まれているので主食についても塩分の確認が必要です。パンはバターを塗ったり、麺類はスープにも塩分が含まれていたり、食べ方によっても塩分量が変わります。まず主食の塩分量を把握して、おかずに使える塩分量を計算するとよいでしょう。
「減塩」と表示されている食品でも実際に成分表示で食塩相当量を確認しましょう。元々塩分が多い食品は、減塩されていても塩分量が多いことがあります。
調理のときに減塩の工夫をする
調理をする段階でひと手間加えると摂取する塩分量を控えられます。
具体的な実践方法を紹介します。
- 食材の水切りをしっかりと行う
- 和え物は食べる直前に調味料を入れる
- 汁物は具沢山にして汁を少なめにする
- 調味料は仕上げで食材の表面にからめる
- 一食の中で味のメリハリをつける
- 香りやうまみで満足度を高める
和え物は時間が経つと水分が出てきて味が薄まりがちです。食べる直前に和えると調味料を控えられます。また、煮物なども仕上げに調味料を使うのがおすすめです。最初から調味料を入れて煮るよりも、少量の味付けではっきり味を感じられます。
そして、大切なのは一食のメニュー全てを薄味にしないことです。一品はしっかり味を付けましょう。全体で味のメリハリをつけると物足りなさを感じにくくなります。
塩味以外で味付けを工夫すると減塩をしても食事の満足度を高められます。香りやうま味・酸味や油脂などをうまく活用しましょう。具体的に使える食材として、以下のものを参考にしてください。
塩味以外で味付けに使用されるもの
香味野菜 | しょうが ニンニク シソ ねぎ |
香辛料 | コショウ 七味 カレー粉 わさび からし |
だし | かつお節 こんぶ 煮干し 干し椎茸 |
酸味 | 酢 レモン ゆず すだち |
油脂 | ごま油 オリーブオイル 無塩バター |
発酵食品 | 塩麹 酒粕 甘酒 |
わさび・からし・しょうがなどのチューブタイプの薬味は塩分を含んでいるため、薬味は生の食材から摂取するのがおすすめです。
食べるときの減塩の工夫をする
食事をとるときに少し工夫を加えると減塩を実行しやすくなります。習慣にしていくと無理なく実践していけるでしょう。
- 調味料はかけずに付けて食べる
- 食卓に調味料を置かない
- 汁物の料理は汁を残す
- できるだけ箸を使って食べる
- よく噛んで唾液をしっかりと出す
たっぷりのタレやとろみがあるものは、スプーンではなく箸で食べると余分な調味料が皿に残り、塩分の摂取量を控えられます。
高齢者は減塩により低栄養にならないよう注意が必要です。食欲が落ち食べる量が減るとフレイル(心身の虚弱)のリスクが高まってしまうからです。
また、唾液が少なくなると味覚を感じにくくなります。よくそしゃくして食べることが大切です。唾液がしっかりと分泌されると味覚が敏感になり、薄味でも満足できるようになります。
加齢に伴い唾液の量は減少します。舌の運動や唾液腺のマッサージなどを行って唾液の分泌量を増やすのもよいでしょう。(参考:日本歯科医師会 「オーラルフレイル対策のための口腔体操」)
まとめ
腎臓病の食事制限について、塩分の調整法と続けやすい工夫を解説しました。腎臓の機能を保つために、腎臓に負荷をかけない食事制限は必要です。
一方で、食事はエネルギーの摂取や体を作るだけでなく、生活の楽しみにも関わっています。毎回の食事で制限を厳密に守ろうとすると、食べる本人も食事を作る家族も疲弊してしまいます。
食事療法は無理なく継続していくことが何よりも大切です。体調に合わせて「しっかり制限を守る日」と「少し制限を緩める日」と調整しながら続けていくとよいでしょう。
必要な食事制限の内容については個人ごとに異なります。自己流では行わず、必ず主治医や管理栄養士に相談しながら進めましょう。